『世界の難民起業家』

シリア内戦発生後、欧米メディアでは難民に関する報道が過熱し、受け入れに対するネガティブなイメージが溢れましたが、一様な『難民』のイメージとは裏腹に、6560万人の難民一人一人の生活、人柄は千差万別です。実際に難民受け入れの影響もネガティブなものとは限らず、イギリスにおける7つに一つの新規事業は移民起業家によって始められ、ドイツでの新規事業の半分は外国籍のパスポートを持った個人によって起こされています。今回は、その中でも難民というバックグラウンドを持ちながらも起業し、事業を成功させている方々を紹介したいと思います。

Shiraz Icecream         モハメッド・レザさん

PC: http://www.smh.com.au/small-business/entrepreneur/how-mohammed-reza-went-from-refugee-to-entrepreneur-in-three-years-20170324-gv5x49.html

2013年にイランからオーストラリアに難民として来たモハメッド・レザさんは、メリーランドにてイラン風のアイスクリームの店、Shiraz IceCream をオープンしました。レザさんは幼い頃から父の店を手伝いながら貿易を学び、将来はイランの商品を世界に輸出する商売をしたいと考えていました。イランにいた時から二つの事業を所有していたレザさんは、オーストラリアに来た時に The Ignite Small Business Start-ups Program という、難民がビジネスを立ち上げるサポートを行なっているプログラムに参加し、起業しました。レザさんは『このビジネスはとてつもない利益を作るわけではないが、商品はとてもユニークでお客さんが気に入ってくれていると確信しているので、将来に良い展望を持っている』と語ります。現在、Shiraz Icecream はレザさんの家族の他に複数のスタッフを抱えながら、毎日おいしいと評判のアイスを作っています。

Yorkshire Dama Cheese ラザン・アルソウスさん

PC: https://pioneers.virginmedia.com/t5/Advice/From-refugee-to-business-founder/ba-p/12544

シリアからイギリスに逃れて来たラザン・アルソウスさんは故郷の味であるハルーミチーズのビジネスを起こしました。2012年に家族全ての持ち物をスーツケース一つにまとめ、イギリスに逃れて来たアルソウスさん。『手元には何も残らなかったが、希望だけは持ち続けた』と語ります。もともと理系出身で薬剤師の資格を持っていたアルソウスさんは、馴染みない地での生活の基盤を作るために仕事を探し始めます。しかしながら、企業の多くは、リスクを避けるためにイギリスの企業で働いていた経歴を求め、イギリスでの職務経験が無いアルソウスさんの就職活動は難航します。そんな中、故郷の味を懐かしく思い、アルソウスさんはシリアで毎日のように食べていたハルーミチーズを自宅で作ろうと思いつきました。『シリアにいた時に食べていたハルーミを食べたかったのですが、スーパーやネットで買うものでは満足できなかったので、自分で作るようになりました』と語ります。理系のバックグラウンドが幸いし、ネットで作り方を調べ、地元の牛乳をもとにシリアで食べていたものと同じようなハルーミチーズを作ることができるようになりました。その後、ネットやスーパーなどの市場調査を行い、ハルーミチーズに商機を見いだしたアルソウスさんは起業を決意します。地元金融機関で£2500を借り、2014年にYorkshire Dama Cheeseというブランドを立ち上げ、地元のフェスティバルや展示会などで積極的に売り込みました。『シリアにいた時から座った記憶がないくらいずっとアクティブであり続けています。多くのものを失ったけど、失ったものよりも、未来について考える必要がありました』と語ります。2015年にWorld Cheese Awardの金賞を獲得したYorkshire Dama Cheeseのハルーミチーズは、現在イギリス中のスーパーなどに納品されており、製造過程の見える工場の新設などの計画も進行中です。

逃れた先でも法的に働くことを許されていなかったり、母国で有効であった資格が認められなかったりするために安定した職業に就くことができず、生活が困難な状況にいる難民は少なくありません。しかしながら、そのような逆境でもアルソウスさんのように希望を持ち続け、レザさんのようにユニークなバックグラウンドを活かし新しい土地でビジネスを始める難民はとても多いです。実際、難民の流入によるポジティブな経済効果も学者によって証明されており、2016年のイギリスのガーディアン紙では『難民はEUに対しこの先五年で過去二年間に投資された倍額の経済効果をもたらす』という旨のレポートが取り上げられました。このように、一口に難民といってもその実態は多様で、メディアのもたらす一辺倒なイメージとは異なります。今回はその中でも難民というバックグラウンドを持ちながら起業されたレザさんとラザンさんをご紹介いたしましたが、実は日本にいる難民の中でも起業をして成功した人や起業を考えている方は多く、実際に多くのケースでマイクロファイナンスという形の支援でスタートを切ることができます。難民起業サポートファンド(ESPRE)では起業を考えている難民の方のビジネスプランの構築からマイクロファイナンスまでを幅広くサポートしています。